ファインチューニング・RAG・プロンプトの違い — 機密データを入れる前の整理
「社内のナレッジをAIに学習させて、自社専用AIを作りたい」。よく聞く要望ですが、「学習させる」という言葉が3つの異なる技術を混ぜたまま使われていることが多いのです。機密データを扱う前に、まず言葉を分解しましょう。
3つの方式 — 渡し方が違えば、残り方が違う
| プロンプト | RAG(検索拡張生成) | ファインチューニング | |
|---|---|---|---|
| 仕組み | 質問と一緒にその場で渡す | 質問に関係する文書を検索し、自動で添えて渡す | データでモデル自体を追加学習する |
| データの居場所 | 渡した瞬間だけ文脈にある | 文書ストアに保管され、毎回必要分が渡る | モデルの内部に焼き込まれる |
| 更新 | 毎回変えられる | 文書を差し替えれば反映 | 再学習が必要 |
| 手間 | 最小 | 文書ストアの構築・維持 | 学習の設計・計算資源・評価 |
| 向く用途 | 単発の作業 | 社内文書の参照・Q&A | 文体・形式・専門の振る舞いの定着 |
「社内データを学ばせたい」の多く、特に社内文書の参照・Q&A系の用途は、まずRAGで足りるかを検討する価値があります。文書を検索して参照させる方が、学習よりも更新が容易で、何を参照したかも追えるからです。一方、文体や出力形式の定着のような用途では、ファインチューニングが有効な場合もあります。
機密の観点で何が違うか
プロンプト・RAG — データは渡るが、モデルには残らない
どちらも、データはモデルへの入力として渡るだけで、モデル自体は変わりません。ただし「モデルに残らない」は「どこにも残らない」ではありません。送信先のログ・保持、RAG基盤側の保存は別に確認が要ります。機密管理の論点は「渡す経路と先」に集約されます(「学習に使われない」は十分か)。RAGの場合はもうひとつ、文書ストア自体が機密の集積地になる点に注意が要ります。検索できる形に集めた社内文書は、それ自体が守るべき資産です(ネットワーク側の論点は姉妹サイトのRAGと社内データ)。
ファインチューニング — データは「モデルに残る」
ファインチューニングは質が違います。学習に使ったデータの影響はモデルの重みに反映され、後から特定の文書だけを分離・削除することは困難です。学習済みモデルから学習データの断片が出力に現れる漏出も、条件によっては起こり得ることが知られています。つまりファインチューニング済みモデルは、学習データに準じた機密として管理するのが安全側の扱いです。モデルファイルの持ち出しは、データの持ち出しに近い意味を持ちます。
機密データでのファインチューニングを検討するなら、最低限の問いは3つです。学習はどこで行うか(外部サービスならデータも外に出る)、できたモデルはどこに置くか、誰がそのモデルを使えるか。
方式の選択と、場所の選択は別
3方式のどれを選んでも、外部サービスの上でやればデータは外に出ます。「RAGだから安全」「ファインチューニングだから危険」ではなく、方式の選択(何が業務に合うか)と場所の選択(クラウドか、社内に閉じた環境か)は独立した判断です。
機密データを使うなら、方式が何であれ、処理が社内で完結する環境(ローカルLLMと社内の文書ストア)が選択肢になります(ローカルLLMとは何か・データ分類の実務)。
まとめ
- 「学ばせる」の実体は3つ。プロンプト(その場)・RAG(検索して渡す)・ファインチューニング(焼き込む)
- 多くの用途はRAGで足りる。更新が容易で、何を参照したかを追える
- ファインチューニングはデータがモデルに残る。モデル自体を機密として管理する覚悟が要る
- 方式の選択と場所の選択は別。機密を使うなら、方式が何であれ社内で完結する環境を
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